住所は横浜市中区港町1丁目1番地。
文字通りここが横浜市行政の1丁目1番地であり、
市の顔であり、私達議員の仕事場でもありました。
JR関内駅の真ん前にあり、ときにはハマスタから歓声が聞こえる一等地。
横浜で唯一無二の場所だと思います。
その、今は「旧市庁舎跡地」となった場所が、
このままだと10日あまりで民間企業に建物は売却、
土地は長期貸付となり、実質市民の意志が届かない場所になってしまいます。
今月9月末までに予定されている「本契約」では、
建物全体でわずか約7,700万円 (マンションの部屋ですか⁉)
市有地である底地は77年間もの長期貸付で (租借地ですか⁉)
権利金も取らず (気前良すぎます!)
賃料は相場よりはるかに安い、1/5~1/3程度の1,000円/㎡・月での貸付となっています。 (企業としては利益率高〜いですね!)
旧市庁舎は築60年と年数を経てはいますが、
11年前に60億円をかけて大規模な免震耐震工事をしており、
その際の調査では工事によって約50年は使用可能と結論づけられました。
著名な建築家である村野藤吾氏の設計として知られ
歴史的建築物としても高い価値をもっています。
しかし1億円以下の契約は議会承認が不要となっているため、
77年間という異例の長期土地貸付けを含め議会で議論されずに進んでしまいました。
山中市長は、選挙中この問題について市民から問われ、
自分が市長になればまず調査する、対案も考えると話しています。
そこで、9月16日の本会議、山中市長への初めての質疑でこの問題について以下の点を聞きました。
①市民に話した旧市庁舎の調査は行ったのか?
どのような調査をし、対案は検討したのか?
②現在の契約条件は安すぎると思わないか?
③今月期限の本契約は先延ばしにすべきではないか?
ストレートな答えではない部分や答弁漏れなどもあり、
合計3往復して以下のような答弁を得ました。
○建物価格算定の妥当性を検証する
○現在、庁内で進んでいる手続きは一旦停止
○決裁は局長ではなく市長が行う
半月後に迫っている本契約の期限の延長については結局明快な答弁はなく、
まずは「妥当性の確認」の繰り返しでした。
しかし、その中で市長自身の言葉として
「鑑定評価の中身が問題という点に関しましては、まさに私もそのように捉えており」
との答弁があり、翌日の記者会見でこれについて問われ、
第三者による調査を指示したと明らかにしました。
ぜひとも、実効性のある検証が必要です。
議場でも言いましたが、今回の破格の条件は形式的には「妥当」な手続きを経ています。
不動産鑑定を2社から取り、それをもとに市の第三者機関である財産評価審議会にかけ、そこが市に価格を答申して金額が決定しています。
問題は、手続きが通常通り行われたか、ではなく、その中身です。
そこで、今回の契約は建物売却と土地貸付の2つがセットになっていますが、
そのうちの建物鑑定について問題を明らかにしたいと思います。
建物について横浜市はA不動産鑑定(A社)と株式会社B(B社)の2社から鑑定書を取っています。
(現在、私も原告となって訴訟途中でもあり、A社、B社としておきます)
2社はそれぞれ別の方法で評価額を出していますが
・A社は評価額7,660万円
・B社は評価額15億円超、ただしこの評価額の5%として結果7,675万円を示唆
と、2社が結果的にほぼ同額の結論を市に提示し、
途中の審議会でもこれが一切見直されることなく、
開発事業者公募の固定条件とされ、最終契約価格7,668万円となっています。
2つの鑑定それぞれに問題がありますが、主なものは以下の通りです。
====A社の鑑定====
手法:再調達原価を109億円とし、そこから耐用年数による減価(現状価値0.7%)をして評価額を算出
問題①耐震補強工事だけで62億円かかっているのに、それを含めた再調達原価(同じものを再取得すると仮定した価格)109億円は安すぎる
問題②耐用年数を0年としたのは、公募で行政棟は原則残存活用とした条件と矛盾
====B社の鑑定====
手法:再調達原価を166億円とし、そこから耐用年数等による減価をして評価額を算出、その後に更に市の利用条件によるとして「格差率」5%を提示
問題①再調達原価は妥当だが耐用年数を0年はA社と同様に鑑定依頼条件と矛盾
問題②減価の結果、評価額を15億3,000万円と出したにも関わらず、
「付記事項」において市の利用条件考慮として、明確な積算なしに「格差率」100分の5を示すのは鑑定のあり方として不適切
特にB社の、鑑定評価額とは結果的に大きく異る額を示唆することになる「格差率」を明確な積算なしに付記で示すことは、大きな問題と言わなければなりません。
実は、これと同様のことが大きな問題になっている事件があります。
【森友学園問題】です。
大阪府豊中市の国有地を森友学園に払い下げする際、地下に埋まったゴミが見つかったとしてこの撤去費用約8億円を土地代金から値引き。
これを巡って財務省が決裁文書を改ざんし、その中で近畿財務局の元職員赤木俊夫さんが自殺に追い込まれるという、重大事件となりました。
今もなお全体像が明らかにされていませんが、この事件により不動産鑑定の信頼性が揺らいだことに危機感を持った公益財団法人大阪府不動産鑑定士協会が、昨年調査報告書を公表しています。
【森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書】
この中で、森友への払い下げで使用された国有地の鑑定評価書の問題点を検証しており、その一つに「鑑定評価額のほかに意見価額の記載があることについて」という項目があります。
これは、鑑定評価書で鑑定評価額を正常価格9億5600万円とする一方で、
付記意見として、地下埋設物がある場合の意見価額を1億3400万円と示し、
結果的にこの意見価額で国有地が森友学園に売却されたことを問題視している部分です。
報告書では、こうした鑑定評価額と別に意見価額などを記載することは、価格に関する誤解を招き、不動産鑑定制度の信頼性維持のためには相当ではないと結論づけています。
これは、横浜市が行った旧市庁舎建物鑑定評価のB社の鑑定で行われていることと、そっくりではないでしょうか。
前段で見たようにB社の鑑定は、
最後に突然根拠不明の5%という係数を持ち出してそれまで積み上げて出した鑑定評価額15億3,000万円とは全く別の金額(直接には計算さえしていない)を示唆し、
これが市によって採用され、
財産評価審議会でも何ら変更されることなく通用し、
企業側にとって破格の条件でのバーゲンセールを可能にしてしまったのです。
公有財産の鑑定という、極めて公共性が高く客観性や透明性が求められる評価において、こうした不透明で恣意的な運用は決して認められるべきではありません。
形式的に審議会を通したから良いというものでは全くないのです。
新たに横浜市長となった山中竹春さんは、データサイエンスの専門家です。
データに忠実ということは、形式が整っていれば良いという意味ではなく、
その数字が何に基づいてどのように出されたのか、それがどう加工されたか、
加工の内容が適切なのか等について十分に踏み込んで検討していただけるものと思います。
今回、建物鑑定評価についてだけ述べましたが、一体となっている土地の長期貸付こそは、この開発の最大の旨味、利権のもとではないかと考えています。
山中市長におかれましては、土地貸付についてもぜひ検証していただけるよう、あわせてお願いしたいと思います。
(参考)
この問題を報じる毎日新聞
「横浜市役所旧庁舎売却どうなる 9月末に期限 新市長の判断に注目」
【横浜市が事業者募集時に示した開発条件】
・行政棟、議会棟、機械式駐車場など全部で7,668万円
(建物延床面積 約3万㎡)
・土地は78年間の定期借地
(敷地面積 約1,7万㎡)
・借地料は2,000円~1,000円/㎡・月 権利金なし
・建物は購入後、解体撤去も可能
・観光集客や産学連携機能を導入
【事業者グループ】
代表:三井不動産
構成企業:鹿島建設、京急電鉄、第一生命、竹中工務店、DeNA、東急、星野リゾート子会社
【森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書】
9/16 本会議 井上さくらの質問