井上さくら の トキタマ日記

横浜市会議員 井上さくら のブログです

災害がれき「始めに広域処理ありき」の官僚主義こそ、復興の妨げ

今日は、予算市議会最終日。
議案や請願などに対して、賛否の意見を述べる「討論」の後、採決が行なわれ、予算を始め、市長提案の議案は全て可決されました。

一方、市民から様々な課題への取り組みを求めて提出された「請願」の多くが不採択(提出者の意には添えないという事)になりました。

多くの課題があり、それぞれ言うべき事はあるのですが、、、、
今回は、放射能汚染が懸念されている災害廃棄物(がれき)の横浜での受入れ(広域処理)に関し、安全性の確認が出来ない以上、受入れて欲しくない、という請願が委員会で不採択にされた事について、市民の意見を尊重して、採択すべき、という立場から討論を行ないました。

以下はその討論の原稿です。
ちょっと長いですが、放射能の心配だけではない、大事な事も含まれていますので、良かったらご一読下さい。

私は、今議会に提案された請願のうち、放射能汚染の瓦礫受け入れを行なわないように求める請願等の不採択に反対の立場から討論致します。

東日本大震災から1年を迎えた今月、多くの市民、国民が、あの大震災を思い返し、被災地に心を寄せ、その復興を願う気持ちを改めて強くしました。

私自身も、震災ボランティアに行った被災地で頭上にまで迫ってきたガレキの山、高台から見渡す限り大地を覆っていた無数のガレキ、今でも目に焼き付いています。

それがまだ片付いていない、復興の妨げになっている、と言われれば、なんとかしようじゃないかと言う気持ちになるのは当然です。

けれども、本当に問題を解決しようとするなら、その課題の原因が正しく捉えられていなければなりません。

先日、川崎駅に細野環境大臣や、林市長も出かけられて行われた「みんなの力でがれき処理の街頭キャンペーンで、配られた、これはそのチラシですけれども、ここには
「災害廃棄物の量は岩手県で通常の11年分、宮城県で通常の19年分にも達しており、その多くが今もなお、処理が追いつかないまま仮置き場に残されている、県内で処理しきれない、追いつかない物を、、、全国でお願いします。」
と書かれ、山積みになった瓦礫の写真が掲載されています。

あたかも、受入れに疑問を呈する市民が、このがれきの山を放置させているような印象すら与えます。

しかし、そもそも、福島を除く2県全体で2,300万トンとされる今回の瓦礫のうち、広域処理分は400万トン、全体の2割にも満たない数です。
このチラシでは「まだ、5%しか処理できていない」と、読む者をあおる訳ですけれども、仮に、その広域処理分を全て全国に配分したとしても、8割を超える瓦礫は現地に残ります。
それは、なぜ、進まないのか??と、今まで何をしていたんだと、この写真を見て、私たちは政府に問わなければいけないんです。

最近一部の報道で、被災した自治体からの、声が聞こえてきています。
岩手県、岩泉町長は、
「現地からは納得できない事が多い」として、町が行おうとした用地買収を国から止められた例をあげ、瓦礫処理についても、「あと2年で片付けるという政府の公約が危ぶまれていると言うが、無理して早く片付けなくてはいけないのか、時間をかけて片付けた方が地元に金が落ち、雇用も発生する」という発言をしています。

陸前高田の町長は、専用プラントの計画を持ち込んでも環境省と県のお役所仕事の中で立ち消えになったと語っています。

国は、当初掲げた平成26年3月までという自らの処理工程表に収まる施設整備ならば相談に応じるけれども、それを超える焼却場なら、域内の人口設置要件等を満たさねばならず、仮に設置後10年未満で財産処分の場合は交付金の国庫返還を、苦しい被災自治体に求めていると、そうした事実を指摘する人もいます。

地元市町村の手足を縛っておいて、「処理が追いつかない、大量の廃棄物が残されている」と言うけれども、それは、追いつかないのではなく、追いつかなくさせている、地元でできないように、国がしているのじゃないかと、思う訳です。

瓦礫広域処理について、最初に政府が全国に協力要請をしたのは、非常に早くて、何と震災後3日目の3月14日です。
全国の民間関連団体と政令市、清掃一部事務組合に対する要請に、本市を含め、聞かれた全ての団体が協力可能と答えています。
3月14日と言えば、福島第一原発の3号機が爆発をした日です。

さぞ、深刻な事態が続発する中、廃棄物処理についても、様々な検討、見直しが図られているだろうと思いきや、
国は早々と引いた広域処理のスキームを民間に、より広げようと、3月31日には産廃施設での処理をしやすくするため、
事前届け出の30日ルールの撤廃を行なっています。

そしてその後、4月8日に、より詳細な受け入れ体制についての調査があり、この時点では全国の自治体が手を挙げました。

横浜市も年間最大18万トン受け入れ可能と回答をしています。

しかし、その後、原発事故による放射能汚染が広範囲に及んでいる事が、市民の目にも明らかになりました。
国は、これまでと全く違う対応を迫られていた訳です。
放射能汚染の実態を把握し、国際的な原則に従って、その封じ込めの方法を真剣に検討すべきでした。

しかし、国はそれを行わず、実は、今回の震災の前から業界団体からの要請で検討してきた広域処理のスキームにこだわり、地元自治体の自力での処理に「マッタ」をかけ続けていたと言う事です。

こうしたやり方とは別に、国や県に頼らず独自処理を決めた仙台市では、国が目標とする再来年3月よりも半年以上早く処理を終える見通しになっています。

要するに、復興の妨げになっているのは、広域処理が進まない事ではなく、むしろ、「始めに広域処理ありき」で独善的な計画を立て、これににこだわった官僚的な国のやり方だと申し上げたいのです。

今回の、大地震、大津波、そして原発事故という三重苦ともいうべき大災害では、その様相、それぞれの被害の質、量、濃淡が特に複雑で、これを例えば、国や県であっても、ひとくくりに処理する事は、まずできません。
だからこそ、きめ細かな当該市町村が当事者として対応できるよう、人や技術、資金、必要な権限を提供する事こそが必要とされているのだと思います。

実態にあわない、広域処理になぜこだわったのか、いまだに、なぜこだわっているのか、その動機について、私は、この予算市会始めの本会議で、「復興に名を借りた、巨大公共事業の全国へのバラマキだ」と申しました。
広域処理としてわざわざ遠くまで運べば、割高になり、しかも
その費用は、雇用や経済活性を必要としている被災地には落ちない。
被災地以外の受け入れ自治体や、民間業者の取り分として、貴重な復興財源が利権に姿を変えている。

ますますそうとしか思えなくなっています。

岩手県釜石市の瓦礫処理、昨年7月に行われた1回目の入札では、地元中小企業が主体となって「三陸海岸大規模災害廃棄物処理有限責任組合」をつくり、入札に参加したものの、落札したのは、大手ゼネコンの鹿島と本市でもよく見かけるJFE系列のタケエイ、そして新日鉄の子会社による大企業JVでした。

この中央の大企業連合が提示した入札価格は13億2300万円。
地元企業組合が提示したのはそれより安い10億6000万円、
それなのに、技術評価点で大手ゼネコン組が評価されて落札しています。
その後の2回目は広域処理のネットワークを期待されて大成建設が取っています。

横浜のこの議会でも、公共工事の地元企業への発注をという議論はしょっちゅうある訳ですが、
何とか復興へテコ入れをという、被災地においてこういう事で、良いんでしょうか。

「みんなの力でがれき処理」を初め、広域処理の宣伝費には、新年度分を含め40億円もの予算がついています。
広告代理店を使った新聞見開きの大広告、テレビやインターネットを使った宣伝、こういうやり方は、
本当の復興に資するとは思えません。
地方自治や民主主義とも相容れないものです。

「始めに広域処理ありき」という国の進め方こそ、問題だと申しました。
これは、今回請願を出された市民の皆さんが心配されている安全性の問題とも関係しています。

先日、川崎駅に来られた細野環境大臣、しきりに持ってくる瓦礫は安全ですとおっしゃっていたようです。
国は、昨年6月「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」を定め、これ以外、つまり宮城県岩手県の廃棄物自体には放射能汚染の程度による区別を設けず、広域処理の対象としました。

県の境界線で放射能汚染の有無を区切れると言う間違った認識に立った方針です。
その後、横浜でも大きな問題となった稲わらの汚染によるセシウム牛肉の流通がおきました。
福島以外の県の稲わらも高濃度に汚染されていたじゃないですか。

当たり前ですが、放射能は県境を超えるという事が立証されたにも関わらず、環境省はその前に決めた前提を見直す事無く、今日に至っています。

街頭に見るからにきれいに分別された木屑を持ち込み、これを線量計で測って首都圏と同じです、というパフォーマンスを大臣がやっていますが、瓦礫の汚染度は空間線量では測れません。
津波による泥にまみれ、様々なものが混入している今回の瓦礫には放射性物質だけでなく、アスベストやPCB、六価クロム等の有害物質が実際に見つかっています。

それを、わずかなサンプルだけを測って、安全等と、とても言えたものではありません。
大臣のパフォーマンスは国民をばかにした子どもダマシという他ないです。

横浜市は現在、県や他の政令市とともに、がれき広域処理のためのマニュアル作成の会議を続けています。

民間が請け負い、民間が焼却、最終処分するスキームの検討も行なわれています。

冒頭の経過のところで述べたように、国は震災からわずか3週間後という時期に、
民間産廃施設で一般廃棄物を焼却する手続きの大幅な簡素化を行っています。
受け入れ側自治体との事前協議の義務づけもなく、
一方的な通知のみで法的には可能になっています。

つまり、今、知事が言っている100ベクレル以下の物しか受入れない、などということも、
どうやって担保するのか、全く明らかではありません。

そもそも、一般廃棄物である瓦礫の処理は、市町村固有の「自治事務」です。
本来、国も、県も口出しできるものではありません。

今回、国は特措法や規則の緩和や「ガイドライン」などの綱渡りで、「災害廃棄物の広域処理」を中央集権的に進めようとしていますが、そのような行為に法的根拠が実は無い、という事を黒岩知事も、環境省も認めています。
だからこそ、県庁での対話会でそれを思い知った後、知事は、林市長も連名で、国に対し、新たな法的措置を図るよう、文書で求めました。
先週でしたか、その回答が国から来ましたけれども、国は新たな法整備はしない、と答えています。

できないんだと思います。
憲法」で地方自治を定め、
地方自治法」で一般廃棄物処理を明確に自治事務と位置づけ、
廃棄物の処理及び清掃に関する法律」で廃棄物を一般廃棄物と産業廃棄物に大別している以上、
こうした基本法や関連法の全てを変えなければ、今のような広域処理は出来ない、

何度も言いますが、現在の特措法は、環境省自ら認める通り、国主導の広域処理の根拠にはなりません。

こうした瓦礫の広域処理は、市民の命と健康、安全の問題である事に加えて、
民主主義と地方自治の問題でもあります。

国が関係業界からの要望を受け、官僚主導で進めようとしたものの、
原子力災害、放射能被害という、全く新しい事態に対応する事ができず、大幅に復興を遅らせた、その失態を認める事無く、むしろ補助金をばらまき、巨額の宣伝費用を投入して国民の良心や同情心を利用して、自分たちの勝手な計画をごり押しする、
これは、被災地の復興にも反し、国民の命、健康に危険を及ぼし、さらに、民主主義と地方自治に背くものです。
この事を危惧する市民の声を受け止め、これらの請願を採択するよう、訴えて、私の討論といたします。


残念ながら、討論の甲斐無く、この請願は本会議での多数決の結果「不採択」となってしまいました。
請願を提出された皆様に力不足をおわびしなければなりません。
でも、これで終わった訳ではありません。
多くの皆様に関心を持って頂き、しっかり、監視し、声を上げていきたいと思います。
私たちの命や生活を、国任せにしてはいけない、というのも、3・11の重要な教訓だと思いますので!