井上さくら の トキタマ日記

横浜市会議員 井上さくら のブログです

落第中の横浜市教育委員会が、「100点じゃなくてゴメンなさい」???

原発事故のため福島から横浜に避難してきた小学生がいじめられ、150万円もの金銭を取られていた・・・

昨年11月にそう報じられてから4ヶ月、私は市議会の「こども青少年局・教育委員会」所属のため、この問題を継続して議論してきました。

その都度、どうしてこんなに教育委員会の感覚はズレているんだろうと思うことばかり。

いじめられた子どもが金銭を取られたことを「いじめと認められない」と教育長が発言し、被害児童と保護者からはもちろん、全国からも批判が集まり、教育長が深々と頭を下げて謝罪する事態にもなりました。

そんな迷走を続けてきた横浜市教育委員会が、問題の総括となる「いじめ重大事態に関する再発防止検討委員会報告書」の【素案】を公表しました。

(市会の委員会資料からダウンロードできます→)【素案】

全部で34項目に及ぶ「再発防止策」を列挙し、「同じ過ちは繰り返さない」とうたっています。

その中には、いじめについて教員が一人ではなく学内のチームで対応する事や、スクールソーシャルワーカーの強化など、本当に機能させなければと思う対策もありますが、、、、でも、これって今までも言ってましたよね??

これまでもうたっていたのに機能しなかったのはなぜなのか、どうもそこが分かりません。

また、これがなぜ、今回の再発防止策なのか?と思うものも多数。

例えば、「児童生徒がSOSを発信しやすい仕組みや環境づくり」
今回、この子は何度も担任の先生に相談しようとして無視され、保護者も学校と教育委員会に直接いじめを訴え、と何度も「SOSを発信」していたのに、それを誰も受け止めず、不登校になってから1年7ヶ月も放置していたんですよ、、、。
その再発防止が「SOSを発信しやすく」って、ずいぶんズレていませんか。

「道徳教育、人権教育の充実」という再発防止策も、今回起きた事からなぜそれが導かれるのか、全く見えてきません。
読めば読むほど、この「再発防止策」で何がしたいのか、疑問が膨らみます。

「いじめ防止対策推進法」に触れない「はじめに」

今回の【素案】が議題になった3月14日の「こども青少年・教育委員会」でも指摘しましたが、そのズレ感が、報告書冒頭の「はじめに」の部分に、よく表れていると私は思います。

素案の冒頭「はじめに」では、「心からお詫び」「大変申し訳なく」「深く反省」と、謝罪の言葉が並びます。

これだけ謝っているのだから、まあいいか、と思うところですが、でも、一体何について謝っているのでしょう。

今回の件は、横浜市教育委員会が「いじめ防止対策推進法」違反を繰り返して、明確ないじめ重大事態を1年7ヶ月にも渡って放置した事、その結果、憲法で保障されている児童の学習権を侵害し、児童と保護者の尊厳を傷つけてきたという点が最大の問題です。

しかし、この「はじめに」の中では、「いじめ防止対策推進法」は一言も出てきません。

「心からお詫び」しているのは、赤線を引いた通り「いじめが起きてしまったことについて、いじめを受けた児童と保護者につらい思いをさせてしまったこと」に対してです。

「いじめ防止対策推進法」では、いじめについて「行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と巾広く定義しています。
かつて、滋賀県大津市で中学生がいじめにより自殺に追い込まれてしまった事件の際、学校や教育委員会が「いじめではなく喧嘩だと思っていた」等として問題を認めず、事実の隠蔽に走った教訓からこの法律が作られたためです。
いじめを無かったことにせず、むしろ積極的にいじめを拾い上げて対策することが求められているのです。

だから「いじめが起きてしまったこと」は、確かに望ましいことではないけれど、起き得ることだし、それ自体は違法ではありません。
つらい思いをさせたのも、申し訳ないことだけれど、今回はその程度のことではないはずです。

後半では「いじめの未然防止、根絶に向けて」「すべての学校において『いじめを絶対に許さない』意識の徹底を図ります。」としています。

良いこと言ってるようだけど、そんな100点満点を、今の横浜市教育委員会が求められていると思っているのでしょうか?

横浜市教育委員会は、守るべき法律を守っていなかったことが明らかになり、その事さえ、なかなか率直に認められずに、信用失墜している状態です。

大きなマイナス点が付いて落第中の横浜市教育委員会が、「100点じゃなくてゴメンなさい」と反省して見せても、何が悪かったのか、自分の立場を本当に分かっているの?と思ってしまいます。

違法状態と、努力目標の未達成とは全然違う

「はじめに」で、いじめ対策の根拠法である「いじめ防止対策推進法」に触れず、違法状態であったことを明確にしていない姿勢が、再発防止策においても、公務員である以上、最重要な法令遵守と、努力目標である「いじめ未然防止策」とを混在させ、あれもこれもやります、とりあえず許してください、という内容にしてしまっています。

これが、意図的なものなのか、官僚組織が無意識にしてしまうものなのか、どちらにしても、これではいけません。

横浜市教育委員会は、子どもが起こすいじめについて「絶対に許さない」と言う前に、自分たちが違法行為を「絶対に行わない」と決意し、そのために必要な事をすべきです。

法律を守れる学校・教育委員会に変わること

この素案を議題とした3月14日の委員会で、私は、古い、間違ったいじめの定義から、法に基づくいじめの定義を周知したことにより、学校での「いじめ認知件数」はどう変化したかと質問しました。
すると、昨年11月末に1,914件だったところ、今年1月末には3,142件との答弁。
2ヶ月間で、1,228件も増加していた事が分かり、翌日の新聞でも大きく報道されました。

この1,228件は、今回の問題が明らかにならなければ、埋もれていたかもしれない「いじめ」です。その意味でも、避難してきたお子さんと保護者さんが勇気を持って訴えてくれたことで、たくさんの子どもが救われているのだと思います。

一方で、この「いじめ防止対策推進法」に基づくいじめ定義によれば、このように、従来よりずっと多くのいじめを俎上に上げ、法が求める通り、一つ一つへ丁寧にチームで対応しなければなりません。でも、そのためには、今の先生たちはあまりに多忙です。
そもそも、チームで対応すると言っても、そのために時間を合わせて会議することすら難しい、と現場の校長先生からも聞いています。

それならば、先生を増やすこと、先生をサポートするスタッフを増やすことも積極的に行わなければなりませんが、この報告書に具体的な記述はありません。

法律を当たり前に守れる学校・教育委員会に変わること、それはできなくても仕方ない「努力目標」ではなく、絶対に実現すべき義務なのです。
そこを曖昧にしてはなりません。

「100点じゃなくてゴメンなさい」と謝ることで、本当は落第中であることを、保護者、市民がうっかり忘れて、「100点満点は大変なことだもんね、すぐにはできなくても仕方ないね」と言ってくれるとでも?

教育行政に市民の目を

今回の件では、教育委員会会議の非公開が続いたり、第三者機関の報告書が真っ黒に墨塗りされたり、再発防止検討委員会の音声データがすぐに消去されたりと教育委員会の閉鎖性もとても問題になりました。

第三者機関(いじめ問題専門委員会)の報告書常任委員会資料の中に含まれています)

市民の目も声も届かないところで、独りよがりの議論をしていたのでは、世間の常識から外れていくのは当然です。

この素案について、被害児童と保護者からも意見をもらうべきだと委員会で提案し、意見を聞いてから最終案を作ることになりました。
被害者を置き去りにしての再発防止策など、ありえないと思います。
せめて、つらい中、頑張って声を上げてくれたこの子の想いをきちんと受け止める報告書にしなければなりません。

教育委員会を開かれたものに変えていくこと、それが今回のようなことを繰り返さない、再発防止の第一歩だと思います。

みなさんはいかがお感じでしょうか。
ご意見をぜひお聞かせください。

横浜市「市民からの提案」へ 

井上さくら


今後の流れ (どちらの会議も傍聴可能です)

3/17(金)素案について教育委員会会議

被害者側や議会の意見等を踏まえて素案を修正し、最終案を作った上で

3/27(月)市長開催の横浜市総合教育会議で議論


これまでの質疑など

2/24 本会議での井上さくらの質問と市長・教育長の答弁

3/7 予算特別委員会での井上さくらの質問と教育長の答弁